木版画は摺りで決まる!
質、量ともに世界の木版画を代表する日本の浮世絵は、ヨーロッパでは、印象派
の巨匠たちに見いだされ、絶賛されました。また、ジャポニスムの流れの中で、
ゴッホやマネの絵画をはじめ、多くの芸術作品にも影響を与えています。1枚の
浮世絵を完成させるために、北斎、広重のような浮世絵を描く絵師、木版に彫る
彫師、彩色して紙に摺る摺師が、それぞれの役割の中で力を尽くしています。な
かでも、木版画は摺りで決まる、と言われていますが、その摺りの道具であるば
れんとその使い方が仕上がりを左右します。
本書は、摺り師たちが口伝によって受け継いできた日本独自の摺り道具本ばれ
ん≠フ構造・使用材料・設計図・製法、正しい使い方・保存方法・修理方から摺
りの技術までを、現役ばれん職人が徹底解説した、すべての木版画制作者・愛好
者必携の1冊です。
その他、ばれんの種類による摺り上がりの比較写真、現役の摺り師たちに聞く
「ばれん」にまつわる物語を収録。
本ばれんの製造工程と摺りの技術に見る、驚くべき職人の知恵が満載!
──「人が手で仕事をするということ」はどういうことか──
◎ばれん芯の要は、ばれん綱を縒り合わせることによってできる、無数のこぶ状
突起です。
◎わらび粉渋糊で固めた和紙は木材のような硬さを持ち、たいへん丈夫で軽いの
が特徴です。
◎円形の和紙は、同じサイズのものを貼り込むのではなく、直径の異なるいろい
ろなサイズのものを、当皮の構造に合わせ、複雑に組み合わせて貼り込んでいき
ます。こうすることで、当皮の断面はわずかに中高になり、圧を加えると、適度
な弾力が加わることになります。
◎過酷な摺りの摩擦に耐える素材として、いまだ竹皮に替わるものはありません。
◎ばれんが完成しても、めでたし、めでたし≠ニいうわけには、残念ながら、
いきません。ばれんという道具は、摺り手の道具としてなじむまでに、これから
さらに長い時間がかかるのです。
◎効きのいいばれんは、和紙の内部に絵の具を染み込ませ、和紙そのものの色味
が混じりあい、版画独特の繊細で、深い色を生み出すのです。─(本文より)
後藤英彦
美術専門学校・木彫刻科を中退後、版画家・五所菊雄氏、浮世絵摺師・内川又四
郎氏に師事し、摺りとばれんを学ぶ。1979年、ばれん工房菊英設立。本ばれんの
ほか、ばれん関連用具の企画・開発にも取り組む。ばれん職人の傍ら木版画作品
の制作・発表のほか、ばれん制作指導も行う。
【目次】
第一章 ばれんの製法……7
ばれんの構造……8
ばれん芯………9
当皮………10
包み皮………11
ばれん芯の製法……12
一、竹皮の準備………13
竹皮裂き用針を作る………18
二、2コ縒り………19
三、4コ縒り〜8コ・12コ・16コ縒り………25
4コ縒り………25
8コ縒り/12コ縒り/16コ縒り………26
ばれん芯の種類と用途………27
四、ばれん芯の仕立て——ばれん綱を巻く………28
当皮の製法……34
木型について………35
貼り込み用和紙………36
和紙の貼り込み手順と設計図………37
わらび粉渋糊の製法………38
一、和紙を貼り込む………40
二、縁を削る〜最後の貼り込み………45
三、絽を貼る………48
四、漆を塗る………50
五、木型から外す………54
六、当皮の仕上げ………57
七、ばれんの仕立て——ばれん芯を当皮に収める………62
足しひもの製法………63
ばれんの包み方……70
一、竹皮の下準備………72
二、竹皮の目こすり………73
三、包む………77
第二章 ばれんの使い方……89
ばれんの使い方と効果……90
持ち方………90
使い方………91
ばれん芯/圧をかける場所/包み皮の張り/包み皮の効果と管理………91
摺り方………92
木目との関係………92
ばれんの動かし方の種類………93
きめこみばれん(横ばれん)/まわしばれん/引きばれん………93
和紙との関係和紙の簀の目(漉き目)・伸び………94
ばれん注意書き——使用前の注意・保存と手入れ………95
ばれんの修理………96
芯の編み直し………96
綱の継ぎ方………97
いろいろな摺りの表情………98
ばれん圧強・弱……99
糊あり・なし………100
絵の具多・少………101
和紙湿・乾………102
第三章 資料編……103
竹カシロダケと、竹林の現いま在………104
摺師とばれん………110
道具を“作る”“使う”楽しみ………117
版画関連施設・材料店・材料/用具価格一覧………118
あとがき………119