故郷・諫早に根差し、「イメージの採集家」(宮原昭夫)とも形容される端正な筆致により数々の作品を生み出した作家、野呂邦暢。小説集成の2巻となる本書では、“瀕死の渡り鳥と死滅寸前の海に捧げる挽歌”として書かれた「鳥たちの河口」など、 詩的感性の冴えわたる短篇を集成します。
<第二巻>日が沈むのを 2013年9月20日発売
「不意の客」「朝の光は……」「日常」「水晶」「赤い舟・黒い馬」(*)
「日が沈むのを」「柳の冠」(*)「四時間」「鳥たちの河口」「海辺の広い庭」
(*は単行本未収録作品)
エッセイ 宮原昭夫(作家)
解説 中野章子
「このぜいたくで移り気な、イメージの採集家は、まるで宝石を路上にこぼしながら歩いて行くように、こともなげにそれらを、ほんの一、二行で鮮やかに定着し、そして、惜しげもなく、たちまちそれを見捨てて、新しい細部に向って出発してしまう。……世界の本質は無関心である、という発見。それにはこっちからも無関心に、距離をもって眺める、という対応。すると“にわかに世界が好ましい細部を現してくる。”野呂文学のヴィヴィッドにふるえる視線の先に現れる宝石のような細部を説明するのに、これ以上の言葉は不要だ。」(宮原昭夫)
<今後の刊行予定>
第三巻 草のつるぎ
「砦の冬」「恋人」など
第四巻 冬の皇帝
「八月」「回廊の夜」など
第五巻 もうひとつの絵
「猟銃」「失踪者」など
第六巻 諫早菖蒲日記
「落城記」「死人の首」など
第七巻 丘の火
「馬」「青葉書房主人」など
第八巻 資料集
各巻解説:中野章子
監修:豊田健次
書容設計 editorial design:羽良多平吉
各巻仕様:四六版、上製角背、496ページ予定
野呂邦暢
1937年、9月20日、長崎市岩川町に生まれる。1945年、諫早市にある母の実家に疎開。8月9日、原爆が長崎市に投下され、原爆の閃光を諫早から目撃する。長崎市立銭座小学校の同級生の多くが被爆により亡くなった。長崎県立諫早高等学校を卒業後、様々な職を経て、19歳で自衛隊に入隊。入隊の年、諫早大水害が発生。翌年の除隊後、諫早に帰郷し、水害で変貌した故郷の町を歩いてまわり、散文や詩をしたためる。 1965年、「或る男の故郷」が第二十一回文學界新人賞佳作に入選。芥川賞候補作に「壁の絵」「白桃」「海辺の広い庭」「鳥たちの河口」が挙がったのち、1974年、自衛隊体験を描いた「草のつるぎ」で受賞。『十一月 水晶』(冬樹社)、『海辺の広い庭』『一滴の夏』『諫早菖蒲日記』『落城記』(文藝春秋)など著作多数。1980年、急逝。享年42。
エッセイ 宮原昭夫
1932年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業。作家。1966年「石のニンフ達」で文學界新人賞受賞、1972年「誰かが触った」で芥川賞受賞。著作多数。
各巻解説 中野章子
1946年、長崎市生まれ。エッセイスト。著書に『彷徨と回帰 野呂邦暢の文学世界』(西日本新聞社)、共著に『男たちの天地』『女たちの日月』(樹花舎)、共編に『野呂邦暢・長谷川修 往復書簡集』(葦書房)など。
監修 豊田健次
1936年東京生まれ。1959年早稲田大学文学部卒業。「文學界・別冊文藝春秋」編集長、「オール讀物」編集長、「文春文庫」部長を歴任。野呂邦暢の才能をいちはやく発見し、デビュー作から編集者として野呂を支え続けた。著書に『それぞれの芥川賞 直木賞』(文藝春秋)『文士のたたずまい』(ランダムハウス講談社)。