著者は、今年(平成30年)満100歳、百寿を迎えた。百人一首に親しみ、かるた遊びに興じた子ども時代を過ごす。
歌の心を育みながら、長じても折に触れて作歌を楽しんできた。高齢となり、介護サービスを受けながら、93歳から100歳までの7年間の日々に作り続けた歌を歌集にまとめる。
歌を作り、歌に遊びながら百寿を迎えた著者の、柔らかい感受性と慈愛あふれる眼差し、旺盛な好奇心とユーモアの心が歌から伝わってくる。家族を思いやる気持ちと、身近な自然を愛でる心が共感を呼ぶ。
(日々の暮らし)
起こされてまた寝かされて老いの身は 人形のごと子等の手の中
耳とおきわれに一文字「か」と書きて 刺されし手足見する曾孫は
体操の真似して遊ぶ幼子の ようやく上げし片足を愛ず
(四季)
寒に耐え芽吹ききしもの皆愛し 我も目覚めん思い湧きくる
一椀に秋の盛られし朝の膳 お味はいかが笑顔で嫁は
初雪の降りて思わず口ずさむ 小学唱歌 雪やこんこん
(老いの日々)
われに合う仕事たのまれ弾みおり 明日はなにせんと思いおりしに
朝仕事いろいろありて何時しかに 我が手にあまる心ならずも
すってんころりん すてんころり だいじょうぶですか 立てますか
介護に関する詩歌(短歌、俳句、詩)を多く見るようになったが、その多くは「介護する側」から記されたものだ。「介護される側」からのものはまだ少ないが、ここには、家族を見守り、家族に見守られる百寿の歌人がいる。
装幀 佐々木 暁
石川初枝
大正7年、茨城県生まれ。満100歳(平成30年)。50歳の頃から短歌を詠み始める。歌壇のサークル等には参加せず、新聞等に投稿しながら作歌を楽しむ。80歳を過ぎて体調をくずして作歌を中断。 93歳の時、紅葉の湯治湯で何年かぶりに歌が浮かぶ。それから100歳まで、毎月数首の歌を詠み続け、7年間の歌を歌集としてまとめる。