畑中ワールドを形作る色鮮やかな断片の数々……吉田戦車
宮沢賢治、プレスリー、伊藤整、深沢七郎、高倉健、小林旭、つげ義春、水木しげる、谷岡ヤスジ、青木雄二、村松友視、山口昌男、温泉、新しき村、庭、海、家族、貸本、故郷、任侠、青春、猫、狸、河童、月、映画、カブトガニ、バナナの叩き売り、戦後マンガ論、桑田佳祐……etc.
さまざまな対象を自在に行き来し、ときに鋭く、ときに切なく、ぎらっと光る言葉の乱反射!
この本にひとめ惚れ
【評】糸井重里=コピーライター
一時期、この人の作品に夢中になったことがある。彼の作品には「世界」があるのだ。それゆえに古い作品でも常に最新作に見える。(一部抜粋)
【評】朝山 実
色鮮やかに「まんだら屋の良太」の背景を盛り合わせた全エッセイ集だ。マンガ家なのに絵が一枚も入っていないあたりに、30年分の総決算的な意気込みがうかがえる。
[…]数行の情景の徒然に、著者の繊細な心模様、隣人のありようが素描されている。重複はあるが、思い出すきっかけの違いで陰が陽、ぼやきが愛嬌となる。
なかでも、青木雄二に捧げた弔辞や、武者小路実篤を唯我独尊の「教祖」として再評価するユートピア論などはいま読めば一層興味深い。(一部抜粋)
創作の源泉 端正に書き留める
本書は1982年から様々な媒体に書いてきた紀行文、エッセー、書評など約100本を収録した。「文章だけを集めた本は初めて」という。わい雑なパワーに満ちた「良太」とは対照的な端正な筆致だが、一人の創作者の姿がくっきりと浮かんでくる。(一部抜粋)
叙情にじむ優しいおおらかさ
【評】伊藤剛=漫画評論家
一読して、不思議と背筋が伸びるような感がある。そういう品のある本だ。
[…]武骨であると同時に、優しいおおらかさがある。もちろん含羞もある。だが、不必要に自分をおとしめる自嘲に落ちていないところがいい。
この「品」を支えているのは、簡潔な文体だろう。気さくに書かれたように見せつつ、その実さりげない洗練を感じさせる。そして「私」とともに、気恥ずかしげに叙情がにじむあたりが、また心地よいと思った。(一部抜粋)
純粋な欲望を剥き出しに生きている人間のほうが面白い。もちろんそれは操作された物欲や変態性欲の爆発を指しているわけではない。ではなにか。それは、マンガ、映画、小説などなど表現形式とは無関係に、卓越した作品だけが誇示し得るものなのだと記しておこう。そのひとつの例が『まんだら屋の良太』であることに異論はないだろう。[…]その畑中純が長年の間に書きためてきたエッセイを編んだ本書もまた、完全に同じ機能を持つ。一切ブレはない。人間への好奇心と愛だけがある。(一部抜粋)