一冊の古書の謎と秘められた過去を探す旅、
“ふたりの女”と心の深淵――
愛と哀感を軽やかに描く連作、 ミステリー作品など、後期傑作全二十一篇
初単行本化作品 『縛られた男』『まぼろしの御嶽』『ある殺人』『ドアの向う側』ほか全十篇収録
<第六巻>猟銃・愛についてのデッサン 2016年1月28日発売
「ある殺人」(*)「伏す男」「ふたりの女」「縛られた男」(*)「部屋」「靴」「猟銃」「まぼろしの御嶽」(*)「ぼくではない」(*)「彼」(*)「赤い鼻緒」(*)「馬」(*)「ドアの向う側」(*)「運転日報」(*)「天使」(*)「愛についてのデッサン―佐古啓介の旅ー」
(*は単行本未収録作品)
エッセイ 福間健二
解説 中野章子
「一九七〇年代の社会の『幸福』に対してあまり上手に歯車を合わせられない暗い心の行方を、野呂邦暢の小説は追っていた。言わずもがなかもしれないが、それは人が環境に負けていくだけの自然主義ではない。物語の流れをせきとめるような詩的凝縮点をつくる。そこに、夢を封じた先の、それでも人が人であり、若者が若者であることへの励ましとなるような息づかいを感じた」(福間健二 本書掲載エッセイより)
監修:豊田健次
書容設計 editorial design:羽良多平吉
野呂邦暢
1937年、9月20日、長崎市岩川町に生まれる。1945年、諫早市にある母の実家に疎開。8月9日、原爆が長崎市に投下され、原爆の閃光を諫早から目撃する。長崎市立銭座小学校の同級生の多くが被爆により亡くなった。長崎県立諫早高等学校を卒業後、様々な職を経て、19歳で自衛隊に入隊。入隊の年、諫早大水害が発生。翌年の除隊後、諫早に帰郷し、水害で変貌した故郷の町を歩いてまわり、散文や詩をしたためる。 1965年、「或る男の故郷」が第二十一回文學界新人賞佳作に入選。芥川賞候補作に「壁の絵」「白桃」「海辺の広い庭」「鳥たちの河口」が挙がったのち、1974年、自衛隊体験を描いた「草のつるぎ」で受賞。『十一月 水晶』(冬樹社)、『海辺の広い庭』『一滴の夏』『諫早菖蒲日記』『落城記』(文藝春秋)など著作多数。1980年、急逝。享年42。
エッセイ 福間健二
一九四九年、新潟県生まれ。詩人、映画監督。著書に、詩集『侵入し、通過してゆく』(思潮社)、詩集『青い家』(思潮社、萩原朔太郎賞・藤村記念歴程賞受賞)、評論『佐藤泰志 そこに彼はいた』(河出書房新社)など。映画監督作に『あるいは佐々木ユキ』など。
各巻解説 中野章子
1946年、長崎市生まれ。エッセイスト。著書に『彷徨と回帰 野呂邦暢の文学世界』(西日本新聞社)、共著に『男たちの天地』『女たちの日月』(樹花舎)、共編に『野呂邦暢・長谷川修 往復書簡集』(葦書房)など。
監修 豊田健次
1936年東京生まれ。1959年早稲田大学文学部卒業。「文學界・別冊文藝春秋」編集長、「オール讀物」編集長、「文春文庫」部長を歴任。野呂邦暢の才能をいちはやく発見し、デビュー作から編集者として野呂を支え続けた。著書に『それぞれの芥川賞 直木賞』(文藝春秋)『文士のたたずまい』(ランダムハウス講談社)。