故郷・諫早に根差し、日常の機微や自然を描いたものからミステリー、歴史小説まで、幅広いジャンルの作品を端正な文体によって描きながらも、惜しくも早世した作家・野呂邦暢。短篇から長篇まで、珠玉の野呂文学を集成いたします。
○各巻に単行本未収録の貴重な短篇を掲載します。野呂邦暢文学を愛する様々な書き手によるエッセイ、および中野章子氏による作品解説を各巻に収録します○
小説集成の第1巻となる本書では、みずみずしい筆致による初期作品をまとめます。
<第一巻>棕櫚の葉を風にそよがせよ 2013年5月31日発売予定
「棕櫚の葉を風にそよがせよ」「或る男の故郷」「狙撃手」「白桃」
「歩哨」「ロバート」「竹の宇宙船」*「世界の終り」 「十一月」
「ハンター」*「壁の絵」 (*は単行本未収録作品)
エッセイ 青来有一(作家)
解説 中野章子
「野呂さんは諫早の地をこよなく愛したが、その美しさばかりを書いたのではなかった。自然がどこかで狂い始めたことを告げる迷い鳥についても小説に書いた。……戦争や兵士、古代史や自然保護といった関心のひろがりも、原爆と水害というふたつの破局を経験して、『世界の終り』をどうしても考えないではいられない想像力に源流があるのかもしれない。文明には終焉がある、人間も滅びる……、そんな深い諦念のようなものをどこかにかかえこんでいたようにも思える。むしろ、そうした滅びの予感が、彼の眼に映る諫早という小宇宙をひときわ輝かせたのではなかったか。」(青来有一)
各巻解説:中野章子
監修:豊田健次
書容設計 editorial design:羽良多平吉
各巻仕様:四六版、上製角背、496ページ予定
野呂邦暢
1937年、9月20日、長崎市岩川町に生まれる。1945年、諫早市にある母の実家に疎開。8月9日、原爆が長崎市に投下され、原爆の閃光を諫早から目撃する。長崎市立銭座小学校の同級生の多くが被爆により亡くなった。長崎県立諫早高等学校を卒業後、様々な職を経て、19歳で自衛隊に入隊。入隊の年、諫早大水害が発生。翌年の除隊後、諫早に帰郷し、水害で変貌した故郷の町を歩いてまわり、散文や詩をしたためる。 1965年、「或る男の故郷」が第二十一回文學界新人賞佳作に入選。芥川賞候補作に「壁の絵」「白桃」「海辺の広い庭」「鳥たちの河口」が挙がったのち、1974年、自衛隊体験を描いた「草のつるぎ」で受賞。『十一月 水晶』(冬樹社)、『海辺の広い庭』『一滴の夏』『諫早菖蒲日記』『落城記』(文藝春秋)など著作多数。1980年、急逝。享年42。
エッセイ 青来有一
1958年、長崎市生まれ。長崎大教育学部卒。作家。長崎を舞台にした「ジェロニモの十字架」で95年、文學界新人賞を受賞。2001年「聖水」で芥川賞受賞。07年「爆心」で谷崎潤一郎賞と伊藤整文学賞をダブル受賞。長崎市在住。
各巻解説 中野章子
1946年、長崎市生まれ。エッセイスト。著書に『彷徨と回帰 野呂邦暢の文学世界』(西日本新聞社)、共著に『男たちの天地』『女たちの日月』(樹花舎)、共編に『野呂邦暢・長谷川修 往復書簡集』(葦書房)など。
監修 豊田健次
1936年東京生まれ。1959年早稲田大学文学部卒業。「文學界・別冊文藝春秋」編集長、「オール讀物」編集長、「文春文庫」部長を歴任。野呂邦暢の才能をいちはやく発見し、デビュー作から編集者として野呂を支え続けた。著書に『それぞれの芥川賞 直木賞』(文藝春秋)『文士のたたずまい』(ランダムハウス講談社)。
「今週のイチオシ」で書評が掲載されました。(評者:岡崎武志さん)
書評が掲載されました。(評者:小林広一さん)
このほか、西日本新聞(2013年6月16日)、長崎新聞(2013年7月19日)、東京新聞(2013年6月16日)に小説集成刊行についての記事が掲載されました。読売新聞(2013年6月29日)に解説を執筆された中野章子さんの記事が、長崎新聞(2013年5月17日)にエッセイを執筆された青来有一さんの記事が掲載されました。