- 日本経済新聞2005年10月9日(日)朝刊書評欄コラム「半歩遅れの読書術」で、津島佑子さんによる鹿野忠雄著『山と雲と蕃人と』にまつわる書評が掲載されました。

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鹿野忠雄の台湾紀行 山を歩き、分野超えた研究
私は本格的な山登りなどしたいと思ったことがなく、そもそも岩陰に小さなトカゲ一匹見かけても、一目散に逃げだしてしまうのだが、だからこそなのだろう、本で読むぶんには、自分では近づけない高山の醍醐味をできるだけ味わいたくなる。
そして、自然界をよく知る人にも大いにあこがれを感じてしまう。
鹿野忠雄という人物もそのひとり。
十年以上も前に、山崎柄根氏の書いた伝記『鹿野忠雄 台湾に魅せられたナチュラリスト』(平凡社)を読んで、いっぺんにこの鹿野忠雄という人物の熱烈なファンになってしまった。
(……)この高校時代は当時、新高山と呼ばれていた四千メートルに近い玉山をはじめとする山登りに明け暮れ、やがて、生物一般、地理学、考古学、そして台湾には古い文化を残す先住民族がいて、登山の案内を頼んでいたことから、かれらと親しくなり、民俗学にも興味を持つようになる。
ひとつの分野には縛られない鹿野の独自な研究は世界で注目されはじめる。
ところが、戦争末期に北ボルネオに軍の指令で派遣され、消息不明となる。軍の召集命令を無視したため、日本の憲兵に殺されたのではないかと言われているが、わずか三十八歳の彼の死を惜しむ人はこの日本ばかりではなく、現在の台湾にも少なくない。(……)
鹿野自身の魅力的な文章に加え、かれに対する多くの人々の愛情が国や文化の
ちがいを乗り越え、一読者である私の胸に迫ってくる。
そして、物言わぬ峻厳な台湾の山々が私の眼前に浮かび上がる。(抜粋)
- 読売新聞2月6日(日)朝刊の読書欄で、本よみうり堂の空想書店2月店主、奥本大三郎さんにより『山と雲と蕃人と』が「店主の一冊」に選ばれました。
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