四六判 218頁
本体価格 1900円
ISBN 89257-032-X C0097







自らの夢想を封じ、禁酒を決意したカンタンが経営するステラ・ホテルに、スペインを夢見る若い男がやってきた……。サルトルを殴り、酒場と留置所を行き来した異色の無頼派・ブロンダンの大ベストセラー小説。


「お話してよ」ちょっと身を擦り寄せてマリーが言った。
 フーケは話を知らなかった。
「じゃ、作ってよ。私が小さいときしてくれたように」おどけてせがんだ。
 こうして彼は冬の猿の話を聞かせることになった。
「ほんとうにあった話なんだ。さっきのパパの友だちがちょっと前に教えてくれたんだけどね。インドだか中国だかでは、冬になるとあちらこちらに小さな猿が迷い出てくるんだ。べつに何をするでもない。好奇心なのか、それとも、何かを怖がったり、嫌ったりして出てくるのかはわからない。すると住民たちは、猿でも心があると信じてお金を出し合い、彼らのしきたりがあり、仲間がいる故郷の森へ送ってやるんだ。そうやって、猿がいっぱい乗った列車が密林へ向かうのさ」
「パパの友だちはそういう猿を見たことあるの」
「少なくとも一匹は見たと思うよ」
「猿は人間の真似をするのよね」何気なくマリーが言った。
「よく知ってるな」
「ひとを怒らせるときやるんだって」

本文より

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