四六判 290頁
本体価格 2000円
ISBN 89257-034-6 C0097









酔ってパーキング・メーターを壊し、監獄行きとなった戦争の英雄ルーク。不敵な微笑みを浮かべながら、真っ向から権力に立ち向う。不条理な暴力が蔓延する監獄から脱出を繰り返し、伝説となった男の物語。


『なあ、神様。確かに俺はちっぽけな、ろくでもない人間さ。だが、そんなことはわかってるはずだ。耐えられないような厳しい試練を与えるのはあんたじゃないか。なぜいつも俺を追いつめるんだ。俺のやることは何もかも間違ってるのか。おかげで、俺はいつも何が間違いで何が正しいのかもわからなくなるんだ』

本文より


テーマが先ず気に入った。反体制的な価値観が一番元気だった一九六〇年代の若者にぴったりくる話だった。当時はもう少し単純な見方をしたと思うが、大人になってから何度か見直すうちに、抑圧的な権力の下で生き甲斐を失っている囚人たちに希望を与えるルークは、一種の救世主のように見える時がある。かと言って、ポール・ニューマンが演じる彼は決して優等生ではない。自分の態度で権力を持つ監視員たちを嘲るルークは、諦めの境地に立っているという印象だ。自分を待っている運命も、もう分かっている。最後のシーンで、教会に駆け込んで、「親父」と呼ぶ神と会話するところでは、理解してもらえないイエス・キリストの姿を思い浮かべるのは、ぼくだけではないだろう。

微笑って死んでいった救世主、ルーク
ピーター・バラカン

>>『冬の猿』へ